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【声明】公害規制の歴史と環境影響評価手続の意義に関する被告・国の認識の誤りについて(2020/07/17)

 In 声明

【声明】公害規制の歴史と環境影響評価手続の意義に関する

被告・国の認識の誤りについて

2020年7月17日
神戸石炭火力発電所建設差止訴訟 原告団
神戸の石炭火力発電を考える会

【声明要旨】

神戸石炭火力差止訴訟において、①国は、規制措置法令が遵守されているにもかかわらず、大気汚染公害が発生したなどという事例は把握していないとし、②公害の防止に関しては規制の遵守のみが問題であり、③環境アセスメント制度は、公害から国民の健康を守るためのものではないから、住民らが環境アセスメントの瑕疵を争う資格はない、と述べている。

しかし、規制が不十分であったから公害が起きたのであり、①の認識は誤りである。環境アセスメント制度は、規制を補い、国民の健康や生活環境を保護することを目的とするものであり、環境アセスメントに瑕疵がある場合には、司法の場で是正する必要がある

1.これまでの経緯

私たちは、2018年9月、神戸製鋼らが建設中の石炭火力発電所について、神戸製鋼らを被告として建設の差止等を求める訴訟(民事訴訟)を提起しました。さらに、同年11月、この石炭火力発電所の建設にかかる環境影響評価書を是認した経済産業大臣の判断(評価書確定通知)が違法であるとして、国を被告とする訴訟(行政訴訟)を提起しました。

これらの訴訟において、本件石炭火力発電所は、①150万都市である神戸市の中心部に、大規模な大気汚染物質排出源を建設するものであること、それにもかかわらず、諸外国で既に行われているPM2.5の環境影響評価(環境アセスメント)を行っていないこと、また、②地球温暖化対策の観点から、世界中で脱石炭に向かうなかで、石炭火力発電所を新増設することは認められないことなどを、主張しています。

2.環境アセスメントは、国民の健康を守るための制度ではない?

上記の行政訴訟の中で、被告・国は、火力発電所にかかる環境影響アセスメントは、一般的公益を守るものにすぎず、「人の健康等の保護法益を個々人の具体的利益として保護するものではない」、したがって、発電所周辺に居住する原告らについても、環境アセスメントの違法を争う法律上の利益がない(原告適格がない)と主張しています。

被告・国の考え方は、次のようなものです。すなわち、電気事業法は、既存の大気汚染防止法などの規制基準の遵守を事業者に義務付けており、このような規制措置法令によって人の健康等への配慮がなされている。環境アセスメントの手続は、いわば上乗せ的に、一般的公益としての良好な環境を保持するものにすぎず、それが不適切であったり、違法であったとしても、個人が争う資格はない、というのです[1]

3.過去の公害規制に不足はなかった?

実際、驚くべきことに、被告・国は、「原告らは、「歴史的にみても、ばい煙規制法や大気汚染防止法の規制が遵守されている地域において、深刻な大気汚染公害は発生したことはよく知られている」などと主張するが、過去の公害等に関する情報を収集している国においては、規制措置法令が遵守されているにもかかわらず、大気汚染公害が発生したなどという事例を一切把握していない。原告らが上記主張を維持するのであれば、その事例を具体的に指摘し、立証するべきである。」とさえ述べています[2]

被告第4準備書面15頁(抜粋)

しかし、公害患者に対して損害賠償等の救済が認められた大気汚染公害訴訟の事例は、いずれも、排出基準等の規制違反が前提になっていない例ばかりです[3]。これまでに大気汚染公害が発生した地域では、大気汚染防止法の排出基準、条例による上乗せ基準、自動車排ガスの単体規制等、規制措置法令が存在していました。それにもかかわらず、深刻な公害が発生したということは、少なくとも環境行政の関係者なら誰も知っていることです。規制措置法令は、健康の保護という観点からも不十分である場合があり、被害者は、その都度、司法を通じて、汚染の差止めや、損害の賠償を求めてこざるをえなかったのです。

上記のような国の認識は、このような基本的事実に反するものであり、電気事業法に基づく火力発電所の環境アセスメントを担当する行政官としての資質を疑わせるものといわざるをえません。

4.環境アセスメント制度の意義

被告・国の認識は誤りであり、規制措置法令は、人の健康や生活環境の保全をするうえで、完全無欠のものではありません。国の規制措置法令は、最新の科学的知見を常に反映しているとはかぎらず[4]、また、工場や自動車の集積、地形等の地域特性を十分に考慮したものとはなっていません。

環境影響評価法1条は、「規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業〔について〕、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とする」と規定しています。環境アセスメントの制度の下では、本件石炭火力発電所のように、環境影響の程度が著しい事業について、大気汚染物質による周辺住民の健康や生活環境への影響予測等も行われます。環境影響の調査・予測評価や環境保全のための措置を事業者に義務付け、(健康や生活環境への影響を含む)環境影響評価の結果を行政決定に反映させるという環境アセスメントの制度は、まさに、私たち市民の健康・生活環境等の利益を保護しようとするものと解釈すべきです。

 

[1] 令和2年2月17日付け被告・国第4準備書面。

[2] 第4準備書面15頁注6。

[3] 四日市公害訴訟(津地四日市支判昭和47年7月24日)、千葉川鉄訴訟(千葉地判昭和63年11月17日)、西淀川公害訴訟(大阪地判平成3年3月29日、大阪地判平成7年7月5日)、尼崎公害訴訟(神戸地判平成12年1月31日)、川崎公害訴訟(横浜地川崎支判平成6年1月25日、横浜地川崎支判平成10年8月5日)、倉敷公害訴訟(岡山地判平成6年3月23日)、名古屋南部大気汚染公害訴訟(名古屋地判平成12年11月27日)、東京大気汚染訴訟(東京地判平成14年10月29日)等。

被告・国には、むしろ、大気汚染公害が個々の事業所の規制措置法令違反が多発したために生じたという事例があれば、それを挙げていただきたい。

[4] このことは、規制権限の不行使を違法と認めた、(最高裁判決を含む)多数の裁判例が指摘していることです。

 

声明(PDF)

【声明】公害規制の歴史と環境影響評価手続の意義に関する被告・国の認識の誤りについて

 

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