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【声明】神戸製鋼石炭火力行政訴訟 最高裁却下決定についての原告団・弁護団共同声明(2023/3/18)

 In プレスリリース

神戸製鋼石炭火力行政訴訟

最高裁却下決定についての原告団・弁護団共同声明

2023年(令和5年)3月9日、最高裁判所は、神戸製鋼の新設石炭火力発電所についての環境影響評価書確定通知取消請求事件(神戸製鋼石炭火力行政訴訟)についての原告らの上告を棄却するとともに、上告受理申立を却下する決定を下しました。この決定は、住民らの申立は適法な上告理由・上告受理申立理由に該当しないという定型文によるものであり、本件に関する特別な理由は示されませんでした。

これにより、原審である大阪高等裁判所2022年(令和4年)4月26日判決(一審の大阪地裁令和3年3月15日判決の結論を支持して控訴を棄却したもの)が確定しました。

大阪高裁判決は、①発電所周辺住民の大気汚染物質曝露のおそれに関する原告適格を認めつつも、②PM2.5の調査、予測、評価を含まない環境影響評価書を経済産業大臣がそのまま審査して適正と判断した点については、裁量権の逸脱・濫用にあたらないとしました。また、③石炭火力発電所からの「CO2の排出にかかる被害を受けない利益」については、地球環境の保全という一般的公益的利益であって、現在の法律および社会情勢のもとでは、個々人の個別的利益とまでは言えないとして、原告らの原告適格を否定し、④大気汚染による被害を受けるという理由で原告適格を認められた者が、気候変動による被害を主張することは行政事件訴訟法10条によって制限されると判断していました。

この結果、火力発電所からの大気汚染については住民が環境アセスメントの確定通知を争えることは明確になりました。しかし他方で、日本においては、環境アセスにおいて、事業者がCO2の大量排出による環境への影響に十分な配慮をしていなくても、当面、国民は誰1人としてそれを行政訴訟で争うことができないことになります。なぜなら、裁判所は、CO2の大量排出による影響は、地球の大気環境の保全という「公益」に関わるものであり、個々人の権利利益に関わるものではないと判断しているからです。

日本では、環境NGOなどの非営利団体が公益に関わる問題について訴訟を提起する制度がいまだ整備されていません。結果的に最高裁は、現時点での日本において、行政訴訟を通じて、CO2の大量排出を許容する行政の判断を市民が争う道を閉ざすことを宣言したことになります。

さらに、石炭火力発電所から排出されるPM2.5について本件の環境アセスで評価の対象としていない点についても、最高裁は、経済産業大臣の専門的・技術的裁量を広く認め、米国などでは行われているPM2.5に関するアセスを日本では実施しないという運用を追認したことになります。

このような不当な結論に私たちは断固として抗議します。

本件をめぐる一審、控訴審、そして最高裁判決の判決には、いくつかの共通点があります。

第1に、気候変動に対する危機感の欠如と気候科学への無理解です。原告ら代理人弁護士は、気候科学の発展に基づき、人類がパリ協定やグラスゴー気候合意が目指す1.5℃目標を達成するためには、今後排出できるCO2の残余量に限りがあり、それは年々逼迫していること(カーボン・バジェット論)を期日のたびに強調してきましたが、その点について、いずれも全く言及がありませんでした。

第2に、大量排出による大気環境のCO2濃度の上昇による地球温暖化・気候変動は、政治における重要な公益的課題であるとしても、海外の多くの最高裁判決でも示されているように、気候危機の進行が深刻な人権侵害を現にもたらし、さらに悪化していく以上、すべての個々人の人権侵害の問題であり、裁判所が役割を果たすべき人類史的に重要な課題であるという法的認識に至ることはありませんでした。

第3に、行政判断における裁量の最大限の尊重と司法によるチェックを控える姿勢です。エネルギー安全保障の名目で、パリ協定後に世界の潮流に逆行する石炭火力発電所を大量建設・稼働させるという誤った日本の政策と、石炭火力発電所の環境への長期的かつ重大な影響を厳格に評価しない環境アセスメントについて、政策の選択の問題であって、裁判所が介入すべき問題ではない、と位置付けてしまっているのです。これでは三権分立が機能せず、日本の人権救済システムは危機に瀕します。

最後に、国内法制とその伝統的な解釈論の枠に閉じこもる視野の狭さです。世界共通の重大な課題に対して、政治・経済・技術を含め、あらゆる分野でのイノベーションが必要な時代に、EUをはじめとする世界の裁判所は伝統的法理論を気候変動問題に巧みに応用した新しい判断を示し、司法の人権の砦としての役割を果たしています。それに対して日本の司法は、その役割を自ら放棄しているといわざるをえません。

ただ、このような気候変動への危機感の欠如や環境アセスの欠陥への鈍感さは、一人裁判所の問題だけではなく、日本の国民全般の気候変動に対する危機感の欠如(マスコミも含む)の表れと言わざるを得ない面があります。

実際、岸田内閣は、2050年のゼロカーボンをうたうGX政策において、原発回帰と既存の石炭火力発電所の活用(将来のアンモニアや水素の混焼)を打ち出していますが、この政策により、日本の2030年の46%削減も、2050年カーボンニュートラル目標の達成も極めて厳しくなりました。

本決定は、気候危機に対する周回遅れの消極的対応に留まる今の日本の姿を包み隠さずに映し出しているとも言えます。

しかしながら、本決定にかかわらず、CO2の大量排出による気候変動を通じた人権侵害行為については、今後、裁判所が適切な判断を示し、その責任を果たすことが求められ、かつ、それは可能です。

本件については、2018年5月時点での経済産業大臣による行政処分の違法性を問うものでした。しかし、現在は2023年です。この5年の間に、気候変動に関する科学はますます深化し、CO2排出と気候変動による被害の関係はより一層明らかとなり、CO2の大量排出は人権を侵害する行為であるという認識は世界中に広まりました。日本政府が2050年カーボンニュートラルを宣言したのもこの間のことです。大阪高裁判決は「今後の内外の社会情勢の変化によって、CO2排出に係る被害を受けない利益の内実が定まってゆき、個人的利益として承認される可能性を否定するものではない」としましたが、本件の判断基準時から5年という年月を経過し、前記のような社会情勢の変化があった今、CO2排出を通じて被害を受けない利益は、既に日本でも個々人の重要な権利として承認されるべきものです。

今回の最高裁決定に続いて、本件の新設発電所計画に関し、事業者に対する民事差止訴訟についての判断が示されます。裁判所には、気候変動をめぐる世界的な情勢を踏まえた責任ある判断が求められます。

私たちは、気候変動による飢餓や資源をめぐる争いの絶えない世界を次の世代に引き継ぐことのないように、本決定に怯むことなく、個別事業者に対するCO2排出の大幅削減の働きかけのほか、世論の喚起、新たな立法の提案など、あらゆる手段を尽くして、進み続けることを誓うものです。

2023年3月18日

神戸製鋼石炭火力行政訴訟原告団・弁護団

声明全文

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※3/20に、一部修正のうえ再掲載。

調書(決定)

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