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【声明】神戸製鋼石炭火力民事訴訟 一審判決についての原告団・弁護団共同声明(2023/3/23)

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神戸製鋼石炭火力民事訴訟

一審判決についての原告団・弁護団共同声明

2023年3月20日、神戸地方裁判所第2民事部は、地元住民らが株式会社神戸製鋼所、同社の子会社および関西電力株式会社に対して提起した、神戸市灘区に建設された新設石炭火力発電所2基(以下「本件石炭火力発電所」といいます)についての稼働差止等を求める民事訴訟について、原告らの請求を棄却する判決(「本判決」といいます)を下しました。

本判決は、本件石炭火力発電所から人口密集地に対して排出される大気汚染物質、特にPM2.5による住民らの人格権に対する侵害については、本件発電所から住民に到達するPM2.5の濃度が住民らの健康を害する具体的危険をもたらすレベルにはない、と判断しました。また、PM2.5による健康侵害のリスクにより平穏生活権が侵害されるとの原告らの主張についても、本件排出によるPM2.5からの健康リスクについては、深刻な不安を生じさせるだけの客観的な危険性は認められないとして、その請求を認めませんでした。

次に、本判決は、本件石炭火力発電所から排出されるCO2については、石炭火力発電所を含む大量排出が気候変動の悪化に寄与していることを一般論では認めています。また、CO2の排出に起因する地球温暖化、気候変動による人格権(生命、健康等)の侵害を理由にした差止請求が可能であることも認めました。

しかし、本判決は、原告らがいつ、どこでどのような災害に遭遇するかは、不確実だとしたうえで、気候変動が原告ら自身にもたらす危険性は、いまだ具体的なものではないとして、人格権による差止を否定しています。さらに、平穏生活権に基づく請求についても、被告の排出するCO2による被害の不安は、不確定な将来の危険に対する不安であって、法的保護の対象とならない、と述べています。加えて、本件発電所からのCO2の排出とその周辺に居住する個別原告の生命・健康に対する影響の関係性は間接的で希薄であり、また、CO2の排出削減は本来的には民主的過程を経た政策によって決定すべきであるなどとして、本件石炭火力発電所からの排出と個別被害との間の法的な相当因果関係も否定しました。

予備的請求として、原告らが求めた本件発電所から排出されるCO2の2040年に向けての段階的削減の請求(日本の他の石炭火力発電所と同じ割合で本件石炭火力発電所からのCO2排出を削減すべきという請求)については、CO2排出は地域や事業が異なっても地球温暖化に寄与する点で同質であり、石炭火力発電所のみを取り出すことはできないという理由などで削減請求を棄却しました。

本判決によれば、日本において、事業者が世界の中の主要排出源の1つとして、CO2の大量排出を長年にわたって継続したとしても、世界規模で見たときには、気候変動への寄与が限定され、また個人に対してただちにその排出が直接的な危険をもたらすものではないとされて、住民がその排出削減を求めることはできないことになります。2023年3月9日付の最高裁決定によって確定した、本件石炭火力発電所についての環境影響評価書の確定通知取消訴訟(行政訴訟)では、「CO2の排出にかかる被害を受けない利益」は公益であって住民の個別的権利利益ではない、と判断されています。この2つの判断を合わせると、日本におけるCO2の排出規制は、政治過程を通じて導入される新たな法政策によってのみ実現できるもので、住民らの権利侵害を理由とする裁判所による規制は、現時点ではいまだ極めて困難となります。

しかし、世界を見回すと、パリ協定やグラスゴー気候合意が目指す1.5℃目標を達成するために、排出できるCO2は限定されている中で(カーボンバジェット論)、全ての排出源が気候変動に寄与していることを前提に、オランダ最高裁判所(2019年)やドイツ憲法裁判所(2021年)は早期の排出削減の必要性を根拠に国の削減義務を認め、また、ハーグ地方裁判所は不法行為法上の注意義務に基づき、大規模排出事業者であるシェルについて、CO2の削減義務を認めました(2021年)。そのような世界の先端的判決と比較して、本件判決は、気候変動に対する危機感を決定的に欠き、気候変動時代の新たな人権侵害への対応姿勢を欠くと言わざるを得ません。

岸田内閣は、GX政策において、アンモニアや水素の混焼を導入することで石炭火力発電所を2050年までも活用する方針を打ち出しました。しかし、石炭火力のCO2の排出は天然ガス火力の2倍も多く、予定された期間、これらを稼働するとそれだけで残余のカーボンバジェットを消費してしまいます。GX政策は、先進国では2030年に石炭火力発電所を廃止しようとしている国際的な流れやIPCC第6次評価報告書の警告に逆行し、2030年46%削減の国家目標の実現を遠のかせるものです。また、CO2を大量に排出する「汚く」「高い」電力を用いた製品やサービスは、今後、長期にわたり、日本の国際的信用と競争力を落としていくことになります。

CO2排出にかかる危険性について、「地球温暖化による被害についての原告らの不安は、不確定な将来の危険に対する不安であるから、現時点において、法的保護の対象となるべき深刻な不安とまではいえない」という本判決の事実認識は、気候変動の科学および国際政治からは大きく立ち遅れています。むしろ、地球の大気空間がCO2を受け容れる余裕はもはやなく、気候変動による個別被害はすでに現実化しているのです。ウクライナ戦争も加わり、1.5℃目標を達成するうえで私たちが排出できる残余のCO2の量は日々、逼迫してきています。時間的にも空間的にも地球に残された余裕はないのです。

折しも本判決と同日に、IPCCは第6次統合報告書を公表しました。同報告書は、気温上昇を1.5℃に抑えるために削減目標の前倒しが必要である指摘して対策の加速を求めています。それを受けて、国連のグテーレス事務総長は、「気候の時限爆弾が針を進めている」と発言しています。

私たちは、本判決に強く抗議するとともに、すみやかに控訴して、世界の公害施設としての本件石炭火力発電所を含む石炭火力発電所の問題点を、引き続き、裁判所、事業者、市民のみならず、広く国際社会に訴えてまいります。

2023年3月23日

神戸製鋼石炭火力民事訴訟 原告団・弁護団

声明文(PDF)

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判決文(PDF)

判決文【PDF

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